川のり板海苔

これまでにも川海苔はいただいたことがあったけれど、ここ、川辺川の川海苔は、これまでに食べたどれとも違った香りと甘みがありました。
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川海苔

 熊本県五木村で、珍しい「川海苔」に出会った。
川海苔は、湧き水の豊富な清流の石につき、村内を流れる川辺川の支流、わずか1キロの範囲にしかない。5月末から9月末、今がちょうど収穫の時期だが、漁業権を持つ村の女性数名が水中の石に張りつくように生える川海苔を採って、板海苔に加工するのみだ。

 「海苔が絶えないように、伸びた若芽の先だけを摘むようにと、祖母に教わりました」と語るのは、民宿兼食堂「ロッジ山小屋」を営む田中加代子さん。収穫した海苔は、ていねいにゴミを取り除いては洗うことを繰り返し、包丁で刻んで再度洗ってから、竹とタカキビで編んだ「海苔干し」に広げて形を整え、天日で一日干す。手間暇のかかる仕事である。

 貴重な川海苔は、村内でも自家用がほとんどだが、加代子さんは、村を訪れる人に味わってもらいたいと、お客さんに提供している。手打ちの川海苔そば、川海苔入り山芋鉄板焼きなどのほか、定食には板海苔がつく。海苔を日にかざすと、驚くほど鮮やかな緑色。口に含むとほんのりと甘く、鮎にも似た風味がある。日本屈指の清流、川辺川の恵みである。

(西日本新聞夕刊2010年7月3日号に掲載)